3月16日、自民党の藤末健三議員は暗号資産やWeb3.0におけるNFTの税制について参議院・財政金融委員会で質疑応答を実施しました。自民党の考え方を示したほか、暗号資産納税における分離課税の導入や産業促進の観点から文化庁と経産省への協力を呼びかけた形となっています。
この質疑応答を担当した藤末健三議員は、経済産業省や東京大学助教授を経て2004年に政界進出した異色の経験を持つ参議院議員です。ハーバード在学中にはプロボクシングのライセンスも取得しています。
また日本維新の会の政調会長である音喜多駿議員と共にコミケで演説も行っており、クリエイター支援のため精力的な活動を行っていることから業界内外から高い支持を獲得しています。
先週11日、自民党の塩崎彰久議員が衆議院の財務金融委員会にてWeb3.0に関する政府の対応について質疑応答を行なっていました。
2022年1月、自民党では党内の「デジタル社会推進本部」がNFT政策検討プロジェクトチームを設立し、国会における暗号資産・ブロックチェーン及びNFTの将来性について言及するなど積極的な姿勢が見受けられています。今後、これらの分野を国の成長戦略の一環として取り入れようという動きが加速しています。
質疑応答の内容
今回の参議院・財政金融委員会では藤末議員が暗号資産やNFTに関する質問に以下のように回答しています。
NFT税制法整備について
藤末議員は「ブロックチェーン技術の発達で米大手企業によるデータ独占が見られたWeb2.0から、Web3.0に変わったことで情報の分散管理ができるシステムへの移行が可能になった。」とコメントするとともに、Web3.0領域の一部であるNFTの税制面が十分に追いついていないとマイナスな面についても見解を述べました。
加えて日本がマンガやアニメ、ゲーム業界においてコンテンツ産業が世界に対して価値を提供していることにも触れ、海外市場では日本のコミック売り上げが5,000億円を超え、アニメーションの売り上げは海外で1兆円規模を超えていることも明かしています。
これを踏まえ、NFTとしてイラストや絵をデジタルアートとして販売することで、イーサリアムなどの暗号資産決済で世界中に販売することができると説明しました。
しかし、日本のクリエイターのボトルネックになっている点がNFTにおける煩雑な納税計算であることも藤末議員によって指摘されています。税務署の職員ですら理解が追いついておらず混乱を招く事例もあるとして、税制の整備の必要性について財務省に見解を尋ねました。
これについて、財務省の住澤整主税局長は以下のように返答しています。
藤末議員のご指摘にあったNFTにつきましては、取引業者が年間における「取引報告書」を納税者に提供して、それに基づいて納税者が申告するという従来の暗号資産のような仕組みが整備されていないのが現状です。
こういった点を踏まえて、納税については暗号資産の例なども参考に関係省庁において申告に関する情報の広報や周知を行なった上で、納税者の方々が適正に申告できる環境を整備するというのが検討されることが必要であると考えております。
国税庁におきましてはNFTの取引にかかる課税関係についてきちんとわかりやすく示そうと、丁寧にわかりやすく周知・広報を行なっていく方向で検討していることと承知いたしております。
分離課税についての提案
分離課税制度について藤末議員は「制度そのものを変えるべき」と明確な指摘を行いました。また加えて、暗号資産税制の「総合課税から分離課税への変更」と米国の法案提出事例を参照した少額決済における暗号資産決済免税措置導入の提案も行われました。
まずファンジブルトークンの一種である暗号資産取引での取得については、外国通貨の為替差益と同様、原則的に雑所得として総合課税の対象になるのが現在の扱いとなるということが明らかになっています。
すでに米国では暗号資産の少額決済を免税する法案が提出されており、その点も踏まえて非課税措置を講じる必要性について、関係省庁と検討していきたいと考えを示しました。さらに暗号資産から生じた所得と他の所得のバランスや課税の公平性との観点を踏まえた検討が必要であるとの見解も述べている状況です。
経産省に行なった呼びかけ
上記に加えて藤末議員は「経済産業省でWeb3.0に関する議論を進めるべきである。」と発言しています。これについては財務省・金融庁では前向きな議論は難しいと理解を示した上、産業振興の観点から経済産業省内での検討を求めた姿勢が見受けられています。
これについて経済産業省の龍崎孝嗣大臣官房審議官は、以下のように返答しています。
ブロックチェーン技術の進展から、暗号資産やNFTを活用した「トークンエコノミー」という新たな経済活動が誕生しました。その結果として商取引や資金調達の在り方、企業組織、強いては産業構造自体が大きく変わり得るという見方も示されています。
またトークンの一部であるNFTは、アートだけではなく、ファッションやスポーツでありながら地域の観光資源などとしてもリアル資産価値を顕在しています。そして新たな収益分配実現の観点から実用が期待されている分野でもあります。海外のスタートアップでは代替性のあるトークンを決済手段としてだけではなく、株式に変わる新たな資金調達手段として利用する姿も見受けられていると把握している状況です。
しかしながらこれらの領域は非常に新しいものであることから、その発展に向けて障害となり得る課題が様々で経済産業省としてもしっかり対応する必要があると自覚しました。
例を挙げるとすればファッションやスポーツの分野です。現在、実証事業を行いながら、正当的な課題を含め、整理をしているところでございます。今後とも新しい動きを「経済成長のチャンス」と捉え、様々な創意工夫を促進していけるよう、関係省庁と連携して取り組んで参りたいと思います。
コンテンツ領域でのNFT活用
最後に藤末議員はNFTなどWeb3.0領域は「個人をGAFAの楔から解放」するとコメントしました。優秀な人材や企業の海外流出事例が危惧される中で、クリエイター個人への支援の観点から文化庁の見解を伺う姿勢を見せました。
これについて文化庁の中原裕彦審議官は以下のようにコメントしています。
近年我が国のコンテンツ分野において、ご指摘の通りNFTを活用した取り組みが増加しています。さらにデジタルアートの署名書を付して流通させ、高付加価値化する取り組みが展開されていると認識しています。
ブロックチェーンの活用でデジタルコンテンツの講評や取引機会の拡大などで意義があると考えられる一方で、「信頼性」における課題も存在するのが現状です。
文化庁としては課題を認識しつつ、NFTを活用したクリエイターへの収益還元や文化財を活用した地域活性策を含め、有効な活用策の促進について文化技術振興の観点から前向きに検討していきたい考えです。
なお藤末議員は上述の平将明議員を座長とするNFT政策検討プロジェクトチームがレポートを策定中であると説明しました。完成した際には経産省にも提出するとコメントしています。
また経産省は現在、アート・ブロックチェーン企業のスタートバーン株式会社に委託する形で目下NFTを利用した実証実験「SIZELESS TWIN」を実施中です。ファッション領域におけるNFT利用を販売し、メタバース内でも利用可能な「ユニークピース」を提供する考えです。