スニーカーとストリートウェアのオンラインマーケットプレイスStockXは現在評価額380億ドルと言われる程の大手企業です。最近では他数十の小売業者と同様にNFT市場に参入したことが話題を集めています。
そして今年初めには実在するスニーカーのデジタルアバターコレクション「VaultNFT」を発表し、その後間もなくナイキも2021年後半に買収したRTFKT Studiosを動員して、NFT市場に踏み込み込んでいます。
ここで問題になったのがこの知的財産侵害の有無です。ナイキはStockXに対し、多数の知的財産侵害があると主張して訴訟を起こしました。本記事ではこの訴訟について解説していきたいと思います。
NFT抗争の背景
StockXは2015年、Quicken Loansの創業者でCEOのダン・ギルバート氏によって設立されました。その後ジョシュ・ルーバー氏からStockXの前身であるスニーカー販売データのオンラインリポジトリであるCamplessを買収しています。現在では入手困難な高級な靴やストリートウェアを購入する消費者にとって、最も人気のあるオンライン・デスティネーションの1つとなりました。
2022年1月18日、StockXはVaultNFTsコレクションを発表し、多角的経営の一端としてNFT市場に参入を開始しています。しかし写真や図画・絵画などの純アート基盤のNFT販売ではなく、オンライン転売プラットフォームとして在庫に保有する物理的なスニーカーのNFT基盤アバターシステムを構築したのです。
ここで販売されるスニーカーはイーサリアム・ブロックチェーン上のERC-1155トークンとして保管権限の下で管理されることが条件となっています。またこのEコマース・プラットフォームは無数のブランドを販売していますがVaultNFTアバターは、NFTを主にナイキブランドのシューズという物理的なアイテムに結びつけたことをきっかけに大きな躍進を遂げることになったのです。
一方でナイキは販売開始から7分間で310万ドルの売り上げをあげたNFTスニーカーブランドであるRTFKT Studiosを買収し、巨大スポーツウェア企業の存在を更に別次元に押し上げます。この買収の目的には「スタイルと実質重視」「先見性のあるエンジニアリング」「常に競合他社の一歩先を進む」というナイキのスタイルに一貫したものでした。
そして2月、ナイキはStockXがブロックチェーンに登録された仮想商品における商標権侵害、商標の稀釈化を行ったとして、他の関連訴訟原因とともにニューヨーク南地区裁判所に提訴したというのがこの訴訟の概要になっています。
訴訟の詳細
本訴訟における最大の争点はファーストセール・ドクトリンがデジタル商品に適用されるか否か、あるいはどのように適用されるかという点が大きな要となっています。
ファーストセール・ドクトリンとは著作権者や商標権者がCDなどの著作物を合法的に購入した消費者による、その商品の他人への転売または貸与や譲渡を妨げることができないとする法原則のことを意味しています。
この原則は著作権者が最初の販売した後に、購入者は著作物を配布可能であることを認めているのです。ファーストセール・ドクトリンがなければ個人・企業・非営利団体は、ナイキ商品の転売や小説の貸し出し、ノーマン・ロックウェルのオークションなどを行うことは不可能となっていたのです。
連邦著作権法はファーストセール・ドクトリンを成文化し、「本号の下で合法的に作成された特定のコピーまたはレコード盤の所有者、または当該所有者から権限を与えられた者は、著作権者の許可なしに、当該コピーまたはレコード盤の所有権を売却またはその他の方法で処分する権利を有する」と述べています。
商標については、消費者を混乱させたり欺いたりする可能性がない限り、商標の付いた品目の転売は認められ、また裁判所も商標とファーストセール・ドクトリンについてこうした制限を認めている状況なのです。
ファーストセール・ドクトリンはデジタル時代以前のものですが、現在でも適用可能になっています。NFTはデジタル資産であるものの、特にNFTが画像・スローガン・歌・スポーツクリップを表している場合の著作権や商標が依然として適用されているのです。
双方の主張
最後にナイキ側とStockX側の双方の主張について解説して終わりにしたいと思います。
ナイキ側
ナイキの主張は以下の5点です。
- 15 U.S.C. § 1114に基づく商標権侵害
- 15 U.S.C. § 1125(a)に基づく原産地虚偽表示/不正競争
- 15 U.S.C. § 1125(c)に基づく商標の希釈
- New York General Business Law § 360-1 に基づく ビジネス上の評判と希釈化の損害
- コモンロー商標権侵害及び不正競争において陪審裁判及び金銭賠償を求める。
15 U.S.C. § 1065とは登録した商標を商標所有者が5年以上継続して使用している場合は、その商標に対して無効請求ができない、とする規則のことです。連邦政府に登録したいくつかのシューズの商標を持っており、ナイキとStockXの間には協力関係がないため、StockXが違法に使用しているとナイキは主張しています。
ナイキは、「StockXは、独自の知的財産権の開発に時間を費やすことなく、むしろナイキの有名な商標と関連する営業権を背景に、ほぼ独占的に露骨にフリーライドすることによって、NFT市場で競争することを選んだ」と主張しています。さらに、ナイキは、StockXのフットウェアをベースにしたVaultNFTは、「ナイキの有名な商標の無許可かつ侵害的な使用」にあたると訴えています。
また現実のスニーカーの著作権及び知的財産権を所有し、VaultNFTのアバターはこれらの権利を侵害しているとの主張も行っています。VaultNFTの所有者はStockXが契約上でシューズと引き換えない権利を行使しない限り、ここで購入したアバターを本物のナイキシューズの入手コスト割引クーポンとして交換することが可能になる点も問題視されています。
さらに販売・流通・宣伝・広告のために州際通商でその商品・サービスに関連して使用される主張商標のコモンロー上の権利を有しているため、同社は現在の商標出願でその使用を拡大し、自社のNFTでバーチャル市場に移行するつもりであると主張したのです。
最終的にナイキは、このケースではファーストセール・ドクトリンは適用されず、知的財産権はシューズの販売とともに譲渡されないため、保持することができると主張しました。
一旦シューズが店舗で販売されると、ナイキはその流通や再販売方法について関与することはできません。しかしこの点についてナイキは「そのイメージがどのように使用され、誰がそこから利益を得るかについて発言権を有している。」とコメントしています。
StockX側
この一方でStockXは同社の各VaultNFTは同社のマーケットプレイスで販売されている特定の商品に関連していると主張しました。ナイキのブランド名と画像を使用する権利は、ファーストセール・ドクトリンに該当しているため著作権の問題はないとの意思表示です。
さらにナイキの知的財産権は最初の販売以降のシューズの取引をコントロールする権利をナイキに与えるものではないた、小売業者または個人からシューズを購入し、転売およびマーケティングプロセスの一環として、限定的にナイキのブランドおよびイメージを使用し、好きなように再販することができるともコメントしました。
まとめ
NFTにおける著作権については資産や財を契約によって分割することが可能となっています。この点はブロックチェーンに記録できるため追跡可能ですが、NFTは不可分な資産とみなされ、暗号通貨のように分割して保有することは不可能になっているのです。
おそらくNFTはソフトウェアと同様に進化する必要がまだ残されており、NFTのクリエーターが著作権のある製品を公開するためには知的財産権所有者からライセンス権を取得する必要が出てくるのです。
こうした新技術に対応するためNFTやブロックチェーン関連の法律は今も改善途中なのです。今後の展開としてナイキ vs. StockX訴訟はNFTやブロックチェーンに関連する知的財産権がどのように発展していくのか、新たな法的洞察を与えてくれそうです。